ガズボーンのことを、チーフ・ヴィンヤード・マネージャー兼COOのジョン・ポラード以上に理解している人間はいないでしょう。ガズボーンにとっての最初の日、つまり2004年5月3日、創業者のアンドリュー・ウィーバーと一緒に、まだ一本もブドウの樹がない地所の風景を見に行ったその日から、ジョンはこの畑のことを知っているのです。
ジョンにとって、5月のその日に感じた魅力は、それが大きな挑戦であるということ以上に意味を持ったものでした。新しいブドウ畑をゼロからつくるチャンスは、”歯の生えた鶏”を見つけるのと同じくらい滅多にないことであり、初期のガズボーンにはジョンが自分の手腕を発揮する機会が十分に用意されていました。アンドリューとジョンは、かつてナタネ、ソラマメ、カブが栽培されていた20ヘクタール(現在は60ヘクタール)の土地を、ブドウが素晴らしい実をつける畑にするために手を取り、力を合わせました。
ワインは、ジョンがキャリアとして最初に目指した方向性ではありませんでした。ヨークシャーでの幼少期を経て、アバディーンに移り、北海の冷たさを骨の髄で感じながら農業の学士号を取得した青年の選択としては驚くには当たりません。(ブドウを育てるには寒すぎるのです!)温暖な気候のニュージーランドを旅した時でさえ、彼の目にブドウは入ってきませんでした。ようやくワインへの関心が花開いたのは、ロンドンの大手のワイン小売会社で働いたことがきっかけでした。その後ジョンはプランプトン・カレッジで2年間、ブドウ栽培の勉強に没頭しました。そんな折、人づてに、南アフリカから来た男性がガスボーン・エステートを購入するという情報を耳にしたのです。
ジョンとアンドリューを一つにしたのは、ただ美味しいだけではなく、イギリスで最も上質なスパークリングワインを造ろうという共通の志でした。「オールドワールドのテクニックを用いながら、ニューワールドの思考でそれを実現しようというのが、私たちの使命です」と語るジョン。例えばシャンパーニュ地方などでは、AOCの規定によって栽培密度や収穫量など、多くのことがすでに決められています。反対に、産業としての英国ワインはまだ新しいため、既成のルールに縛られることなく、より幅広い技術や新しい考え方を取り入れて実験する余地があるのです。
前の年より、進化する
初期の段階では、当然ながらブドウを育てることに注力しました。フランスとドイツから取り寄せたブルゴーニュ系とスパークリング系のクローンの苗木を50:50で使用しているため、最初から高品質であることは確約されています。また、力仕事の側面を機械化することにも投資し、若いブドウ畑をできる限り効率的に管理できるようにもしました。
シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエというクラシックな三品種は、それぞれ生育速度が異なり、剪定方法もそれに合わせる必要があります。「剪定(シングルギヨー、ダブルギヨー)とキャノピー・マネジメントは、とてもデリケートな分野です。ガズボーンではブドウを房ごと手作業で収穫する選択をしました(機械収穫ではなく)。手摘みは、細心の注意と配慮を必要とします。ですから、初期の段階では、収穫期に活躍する収穫チームを信頼できる熟練の一団に育てることも肝心でした」。
2013年にウェスト・サセックス州にさらに30ヘクタールの土地を取得し、スタッフの数も増えたことで、ジョンの仕事はブドウだけでなく人のマネージメントにも発展しました。「今でも畑を歩きまわって、ブドウの樹が一本一本どう成長しているかを厳しい目で見ています。ワインづくりはダイナミックで、常に変化し続けるものなのです。前の年よりどうやったら上手くなれるか、常に方法を模索しています」。
畑のサステナビリティ
有機栽培や、サステナビリティについてはどうでしょうか。「湿潤な海洋性気候にあるため、イングランドの生産者が完全に有機栽培を行うのは難しいのです」とジョンは説明します。彼はアルザスで活発なバイオダイナミックの隆盛に敬意の念を持ってはいるものの、新月の下、シャルドネの横に牛糞を詰めた牛の角を地中に埋めている彼の姿を見るのは、もう少し先になるかもしれません。しかし彼は、ガスボーンがイギリスのサステナブル・ワインズ・オブ・グレート・ブリテン(Sustainable Wines of Great Britain)の創立メンバーに認定されていることを誇りに思っています。「ガズボーンが使っているコンポスト(堆肥)はオーガニックで、近年は農薬や除草剤を75%削減し、再生農業のシステムや土壌づくりに100%取り組んでいます」。
ラブラドール・レトリバーのアンガスを連れて畑を歩き、空模様を見る時、ジョンは太陽を羨望の眼差しで眺めているわけではありません。「2010年をよく覚えています。難しい年でした。たくさんの花が咲いた後、気温が全く上がらず、果実の成熟期が何ヶ月も続くような気候だったんです。一般的には恵まれない年と言われるかもしれませんが、しかしそのお陰で、その年のワインはとても魅力的なものになりました」。冷涼な気候での果実の成熟は、糖度の上昇に時間がかかる一方で、風味成分もその分蓄積し、濃縮していきます。これこそが、ヘッドワインメーカーのチャーリー・ホランドのために、ジョンが畑で創りあげる贈り物なのです。