グラン・クリュの蓄えであれ、これから先何年もかけて楽しむ原石で満たされたセラーであれ、ワイン・コレクションは大きな喜びの源となります。今回は、英国ワイン商ベリー・ブラザーズ&ラッドのジョーディ・ウィリスに、ワイン・コレクションを始めるためのアドバイスを手ほどきいただきましょう。
ポール・モールの一日は慌ただしい。セント・ジェームズ宮殿の前でポーズをとる観光客。明るい春の空にはためく旗。しかし、角を曲がったところにあるベリー・ブラザーズ&ラッドのドアをくぐれば、そこは別世界だ。濃い木目調の、仄暗い店内に目が慣れるには少し時間がかかる。
ワインとスピリッツの愛好家たちは、特別なボトルを買ったり飲んだりするだけでなく、はたまた部屋の隅に鎮座する巨大なコーヒー豆秤で体重を量ってもらうだけでもなく、ワインを寝かせ自分だけのセラーを作るために、何世紀にもわたってセント・ジェームズのこの一角を訪れてきた。
古い店構えの奥にひっそりと佇むのは、静謐な聖域「パーラー」だ。時が止まったかのようなこの空間で、ジョーディ・ウィリスは待っていた。ジョーディーは325年の歴史を持つワイン&スピリッツ商、ベリー家の8代目。ワイン・コレクションの始め方を語るに、これ以上ふさわしい専門家はいないだろう。
ワインコレクターになるために
まず、誰がワインを 集める「べきか」について話すことから始めよう。長年にわたり、ロックスターや王侯貴族がベリー・ブラザーズ&ラッドでワイン・コレクションを築いてきた。しかし最近では、「”平均的な” ワイン・コレクターなど存在しません」とジョーディは言う。
「ワイン収集は、年齢、性別、層に関わらず、誰にとっても興味深いものです。ワインコレクターになる資格があるとすれば、ワインが好きか、ワインに興味があるか、ということだけでしょう」。しかし、『ワイン』への投資には、例えば、壁に飾ることができる美術品や、運転できる車や、身につけられる時計とは異なり、ある種のマインドセットが必要となる。結局のところ、ワインコレクションの最大の喜びは、それを『飲む』ことにあるのだ。「ワインをコレクションする楽しみは、『所有』することだけではありません。ワインを集める体験、そのすべてを指すのです」。
旅行をした後、その産地や生産者への情熱に突き動かされて偶然ワインを集めるようになったとしても、あるいは、計画的に蒐集を始めたとしても、変わらない真実が一つだけある。 「ワインは、それぞれが一つの物語なのです。そのワインが造られた年、そのワインを造った人......。もしあなたがブドウ畑の中に立って、太陽の光を顔に浴び、砂利を足裏に感じたことがあるのなら、ワインとのつながりはより親密なものになるはずです。同様の『絆』の感覚は、ヴィンテージにも当てはまります。自分にとって特別な意味を持つ年もあるのではないでしょうか」。何気なくふれたワインが、突如として深い魅力をもつものになり得るとは、こういうことなのだ。
ワイン蒐集というラグジュアリーな体験
我々の多くは、購入したワインの希少価値が上がり、ついでに市場価値も上がるという目論見が大好物だが、ジョーディ氏は異なる景色を見ている。
「ファインワインをどう楽しむかというのは、興味深いトピックです。『体験としてのラグジュアリーを購入する』ことと、方向性は一致していると考えています。ハイエンド旅行と同じ考え方ですね。」
「素晴らしいものを所有することに大きな喜びがあるのは事実ですが、最終的に私たちが購入しているのは、そのワインを『飲むという体験』であり、その体験を、自分で選んだ仲間と一緒に分かち合うことなのです。」
最新のファインワイン産地を求めて
ファインワインのコレクターがこのような贅沢な体験を求めるにつれ、投資先も変わっていくのだろうか?
「非常に保守的に聞こえるかもしれませんが、ボルドーやブルゴーニュが廃れるとは思えません。また、集めるにふさわしい他のファインワインを探すときに、単純にニューワールドの方を向くという訳でもありません。特に、最もエキサイティングな新興産地が目の前にあるとなればなおさらです」と、ジョーディーは語る。
「この20年間で、イギリスワインに対する認識が変わったことは間違いありません。英国でつくることができるものに人々が自信深めるにつれ、これからますます需要は高まるでしょう。英国では、英国産のワイン、特にガスボーンのようなカテゴリー・リーダーのワインは、その人気が高まっています。
これまでの英国産スパークリングワインの大きなメリットは、その溌剌としたフレッシュさ、そして、ある意味での即時性(=今飲んで美味しい)でした。しかし、プレステージ・レベルでは、熟成ポテンシャルと品質の高さが認められれば、つまり、ワインが熟成を経てさらに美味しくなる可能性があるとなれば、人々はそれをセラーリングしたいと思うようになります。
これらのプレステージ・キュヴェが、私たちがこれまでの体験から知っているような優れたものであれば、リリースされたてではなく、20年後に飲むほうが面白い体験ができるに決まっています。ですから、このようなプレステージ・キュヴェがコレクションに加えられることはますます増えていくでしょう。」
ワインコレクションの鍵は、そのプロヴナンス(ワインの来歴・出所)。ファインワインの蒐集は、階段の下に変わったボトルをしまっておくということとは違う。上質なワインは、適切なコンディションで保管されてこそ、その価値を高めていくと理解することが重要だ。プロヴナンスが完璧でなければ、価値は上がらないのだ。
すべてのワインがコレクションに適しているわけではない。「もちろん、”“最高のワインコレクション”は、あなたが飲みたいと思うボトルで満たされているべきです」とジョーディは言う。「しかし一般的には、熟成によって品質が向上するワインであるべきで、そのような望ましい品質のワインは量も限られているため、リリース時に確保するのがベストなのです」。
一般的に、高級ワインはイン・ボンド(保税:関税と付加価値税がまだ支払われていない状態)で保管される。「その保管においても、ファインワインは適切なコンディションに保たれる必要があるのです。」
ファインワインにとって 「適切なコンディション」とは、室温と湿度が安定した冷暗所で振動や移動のない場所をいうが、それだけではない。「ワインを、関税や付加価値税が支払われる前の『イン・ボンド(保税)』で保管するということは、二次流通市場へも容易に販売できることを意味します」とジョーディーは言う。
「ほとんどのお客様は自身でワインを楽しむために購入しますが、時には飲みきれない分が出ることもあります。もし、将来ワインを売るつもりが少しでもあるならば、そのワインのプロヴナンスが完璧であることがとても重要です。イン・ボンドで保管されていれば、それは保証されていることになります。」
ファインワインの未来
ファインワインを収集する人々は、本能的に、常に未来に目を向けている。このボトルが飲み頃になるのはいつか?注目すべき新しい生産者は?気候変化がワイン産地にとって与える影響は?このような会話は、自然とサステイナビリティとワイン醸造に行き着く。
3世紀以上もの間、商を営んできたワイン商と話をするというのは、サステイナビリティについて熟知した企業に身を委ねたも同然だ。「ワイン商としての私たちの役割は、ワインの未来について語り合う場を人々に提供することだと考えています。これは、これからのワイン業界にとって根本的に大切なことです。」
「近年、私たちの顧客は、生産者のワイン造りが環境に対して低負荷であることを求めるようになりました。もはや必須条件なのです」とジョーディは言う。「それは、ファインワインと密接に関係しています。ブドウの栽培からワイン醸造に至るまで、全ての工程に細心の注意を払い、愛情を注ぎながらも、できる限り低介入で造られたワインは、より美味しくなる傾向があるように思います」。つまり、Win-Winということだ。
「私たちが生産者と顧客を繋ぎ、持続可能なワインメイキングについての知識を共有する一助になること。それはワイン商の未来の、あるべき姿のひとつですね。」
ワイン・コレクションをつくることに魅力を感じる方は、https://bbr.co.jp/pages/cellar-plan で詳細をご覧ください。ガズボーンのプレステージ・スパークリングワイン「51°N(フィフティ・ワン・ディグリーズ・ノース)」も、ベリー・ブラザーズ&ラッドよりイン・ボンドでワイン保管ご希望のお客様に案内されています。