英国ワインメーカーのライジング・スターの一人であるメアリー・ブリッジスが、故郷のスコットランドを離れてしばらくになります。

 

意欲と熱意と集中力を兼ね備えた彼女が、どのようにして世界を駆け巡り、そしてガスボーンの醸造家となったのかをご紹介します。

 

 

まずは「イエス」と答える

 

 

ある晴れた5月の朝、メアリー・ブリッジスがまばゆいばかりに輝いていたのは、背後の真っ青な空やライムグリーン色に輝くブドウの樹々と、ワイナリーの作業用ジャケットが鮮やかなコントラストをなしていたからではありません。

 

むしろ、ワインにまつわることなら何でもござれの知識、人を惹きつけるエネルギー、そして臆することのない熱意がそうさせるのでした。

 

メアリーはガスボーンの醸造家(Oenologist)です。この肩書きは、多くの人にとって理解することはおろか、発音することさえ難しいかもしれません。ワイナリーで彼女が重点的にみているのは、ワイン醸造の化学と研究の側面です。少し気持ち悪くなるほどに、複雑でありながらうらやましい役割かもしれませんが、彼女がその世界に足を踏み入れたのは、ちょうど30歳を迎えるころでした。

 

なぜこれほど早く、今の地位を築けたのでしょうか。メアリーはその秘訣を『断固たる決意』だといいます。「私はいつも”イエス "と言って、まずはやってみることにしています。その上、私は誰かをがっかりさせるのが嫌いなので、イエスと言ったらそれを実行する方法を見つけなければならないんです。」

 

 

ワイン醸造に飛び込む

 

 

それは称賛に値する態度であり、故郷『モルト・ウィスキーの国、インヴァネス近郊の小さな町』から、はるばるイングランドの南端まで彼女を連れてきたものでもあります。

 

「スコットランドではホスピタリティの仕事をしていましたが、そこで好きだったのはワインでした。そこで思い切って、栽培と醸造の学位を取るため、プランプトンカレッジに行くことに決めたんです」。キャリアパスとしてはかなりの飛躍でしたが、メアリーにとっては理にかなった選択でした。「私の父は農業を仕事にしていて、両親は四六時中、外で過ごしています。だからその血が私にも流れているんだと思います。仕事中はオフィスにいることが多いですが、こんなふうにブドウ畑と繋がっているんです」。

 

 

海外修行で学んだ「数値よりも大切なこと」

 

 

学業を終える前の2018年、メアリーは南フランスでヴィンテージを手伝っていました。「そして偶然、チャーリー(チーフ・ワインメーカーのチャーリー・ホランド)から連絡があったんです。ガズボーンの収穫に欠員が出たということで、私はそのままイギリスに移って収穫に参加しました。それが最後ですね。すぐに夢中になりました。ワインを生産する側に入るというのは、本当に容易い選択でした」。

 

2020年にフルタイムでガズボーンに加わる前、メアリーはカリフォルニアの影響力ある生産者、メリー・エドワーズでも、もう一度海外修行を行いました。「私は単なるインターンでしたが、本当に多くのことを学ばせてもらいました」とメアリーは言います。

「ワインメーカーのヘイディは毎日、全てのタンクの全ての果汁、ありとあらゆる全てをテイスティングしていたんです。分析数値も参考にしますが、収穫時期を決めたりするときには、彼女は果汁の色を見て判断していました。

 

これは本当に重要な教訓であり、身につけることが最も難しいことのひとつです。数字だけでワインを造ることはできません。数値に基づいて決断を下すこともできますが、それに目をつぶって、テイスティングに立ち戻る時を知らなければならないのです。時には『そのワインが好きか、そうでないか』ということのほうが重要なのです」。

 

 

畑からボトルまで

 

 

メアリーはわずか数年で、ワイン造りの内気な学生から(「手取り足取り、たくさんの指導が必要でしたけど」とメアリー)、小さいながら非常に才能あるガズボーンのチームで重要な役割を果たすようになりました。同僚のトム、AJ、サラとともに、彼女もワインメーカーズ・エディションに名を連ねています。これらの小規模なボトリング・シリーズは、ガズボーンの若きワインメーカーたちが、ガスボーンの通常レンジの枠にとらわれず、自分の直感やアイデアを発揮できるようにつくられました。

 

これまでのプロジェクトの中で、彼女がもっとも思い入れあるワイン。それは正式名称を「ワインメーカーズ・エディション・ピノ・ムニエ2022」、そしてメアリーが「ベイビー・ロティ」と呼んでいるものです。2022年の収穫時期も終わりにさしかかる頃、メアリーはケントの畑で最も長いハングタイムを経て完熟したムニエとシャルドネを自ら手摘みで収穫し、1樽の大切なワインに仕上げました。そんな愛を込めた仕事ゆえ、このワインは彼女が希望するチャリティ募金のために販売されることとなりました。

 

「このワインはとてもパーソナルなものです。畑で私が感じたこと、その気持ちのよい体験そのものが、ワイン造りに如実に反映されています。このワインにはほんの少しだけ、私の一部が入っているんです。」

 

「大きな達成感を味わうことができたワインとなりました。たった一樽のワインですから、世界を変えるというわけではありません。でも、とても誇りに思っているんです」。

 

  • ワインメーカーズ・エディションのワインは、ケント州アップルドアにあるワイナリーのセラードアで試飲、購入できます。
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