10月10日。ガスボーンの2023年の収穫最終日だ。昼過ぎ、サセックス・ヴィンヤード・マネージャーのアダム・フォデンは、収穫チームの休憩時間に合わせて、冷えた水を運ぶ。暑い。驚くほど暑い。9月上旬以降、気温は20度半ばで推移し、新聞は「英国人、秋の熱波に浴す」という見出しで埋め尽くされた。

 

「控えめに言って、素晴らしい出来です」とアダムは言う。「健康的で立派な実がなりました。シャルドネは特に傑出しています」。

 

収穫チーム、栽培チーム、そしてワインメーカーにとって、この数週間は夢のような日々だった。南イングランドというより、ほとんど南フランスでの収穫のようだった。

 

暖かく乾燥した日が続き、遅れをもたらすような雨も降らず、健全なブドウの過去最大の収穫量を記録した2023年の収穫は、特別なものとして語り継がれるだろう。翌週、涼しく雨の多い天候がやってくる直前に、全ての果実が収穫できたことも含めて。

 

 

テスト、テスト、テスト

 

ヘッドワイン・メーカーのメアリー・ブリッジスは、8月31日にサセックスとケントの100以上の区画でブドウの分析を開始した。これほど早い段階からブドウの状態を厳密に、かつ完全に把握できたのは初めてのことだった。すべてのデータを手にしたメアリーは、糖度の上昇と酸度の低下をきめ細かくマッピングし、的確なタイミングでの収穫に備えた。

 

メアリーは毎週、毎週テストを続け、栽培チームは9月22日、本格的に収穫を開始した。「熱波のおかげで、ブドウは絶好の状態にありました」と、メアリーは言う。「収穫を始めたとき、樹からもいだブドウをテイスティングして、その素晴らしいバランスに全員が気がつきました。糖度、酸度、風味の凝縮度、骨格、熟度…… どれをとっても素晴らしかったのです。」

 

すべてのブドウがこの”スイートスポット”に到達することを目指し、栽培チームはメアリーのデータをもとに収穫する場所を決めていった。つまりそれは、畑単位ではなく、区画ごとに収穫することを指す。ロジスティクスの苦労は涙が出るほどだったが、「チームは素晴らしい仕事をしてくれました。信じられないくらい、経験豊富なチームなのです」とメアリーは言う。

 

畑のスタッフは、ブドウがワイナリーに到着するタイミングをきめ細かくコントロールすることができた。これは、2023年の収穫がガスボーンにとってこれまでで最大規模であったため、特に重要なことだった。

 

「すべてのブドウを自社で栽培することが、いかに素晴らしいことかがよくわかりました」とメアリーは言う。「ジョン(チーフ・ヴィンヤード・マネージャー)、ジム、アダムと協力して、ブドウの入荷状況をコントロールできるのです。」

 

「醸造所でのその日の受け入れ量が限界に達したら、その日の収穫は終わり。翌日のプレスを待つ待機状態のブドウはありません。買いブドウでは、こうはいかない贅沢です。」

 

側から見れば、畑チームとワイナリーの関係はまるで時計仕掛けのようだ。ファインチューニングされたジャスト・イン・タイム方式が遂行されており、収穫のピーク時には、24時間体制でプレス機を稼働させられる。

 

「収穫のタイミングは最高でした」と、ワイン・オペレーション責任者のアラステア・ベンハムは、翌週の天気予報に言及しながら言う。「翌週、天気が崩れるまでに全てを終わらせようと、チーム一丸となって取り組みました。今年はすべてが導かれるようにうまく育った、そんな年でしたから。」

 

「もちろん、困難や挑戦もあります。今回のように、例年にはない大きな収量であれば尚更です。しかし、過去5年間積み上げてきたプロセスのお陰で、冷静に取り組むことができました。収穫前に、プレス機や発酵タンクの大きさ、樽の数から、ワイナリーに運び込めるブドウの最大量を計算したのです。運もあったかもしれませんが、予想はほとんど大当たりでした」。

 

生育期から、味を予測する
 

生育条件がブドウの品質と風味の特徴にどのように反映されるかを見るのは、毎年非常に興味深い。2023年に関していえば、特異な気象だったにもかかわらず、初期段階から何か、魔法がかった兆候を示している。

 

チーフ・ヴィンヤード・マネージャーのジョン・ポラード曰く、「8月から9月にかけては、とり立てて素晴らしい天候だったわけではなく、成熟が始まるのが遅れたかもしれません。そしてそれは、功を奏していたといえるかもしれません。

 

もし成熟期まで灼熱の天候が続いていたら、おそらく糖度と酸度は必要な数値まで高まったでしょう。しかし、果実の複雑さとアロマ成分の蓄積は、同じようにはならなかっただろうと思います。

 

収穫されたブドウには自信があります。今年は、過去最大量の収穫になりました。しかし、ブドウの樹々の状態は良好で、植物自体に過度の負担がかかることもなく、満足しています。」

 

喜んでいるのはジョンだけではない。サセックスでは、アダムが「サセックスで収穫されたこれまでのブドウの中で、最高の出来です」とコメント。ワイナリー全体も、明るいムードに包まれている。

 

「本当に、興奮するほどのクオリティです」と、ヘッド・ワインメーカーのメアリー。「スパークリング用のピノが特に卓越しています。ワイナリーに運び込まれた時点で、これ以上なく良い状態でした。果皮が非常に色濃く驚異的なほどで、ワインに多くの味わい、深み、ストラクチャーをもたらしてくれることでしょう。

 

イングリッシュ・ロゼには、”ハートブレイク”の軽い果実味と”ローワー・ミルヒル” の芳醇でリッチな果実味というように、異なる個性を持つブドウをブレンドして、美しいワインに仕上げます。」

 

今年のケントとサセックスの果実の違いについては、どうだろうか。「サセックスのブドウは、いつも酸が少し強くなります」とメアリーは言う。「ですが、今年ははっきりとチョーキーな余韻が加わりました。特にサセックスのピノには、素晴らしいテクスチャーがあります。方や、ケントの粘土質で育ったシャルドネには、すでに桃などの核果の深みが表れています。こんなに早くからこのような性質が見られるのは、とてもエキサイティングです。

 

本当に私たちが期待するようなヴィンテージになるのか、新年にブレンドをするのが待ちきれません。」

 

記録的な収穫量の、傷ひとつない風味豊かな果実がすべてワイナリーに運び込まれた今、2023年ヴィンテージは待つ価値のあるものになりそうだ。

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