フィフティワン・ディグリーズ・ノース(以下51°N)の新ヴィンテージに対するチャーリー(前チーフ・ワイン・メーカー)の語りには、興奮が宿っています。ファースト・ヴィンテージ・リリース時のような神経質さ、そして、この新ヴィンテージへの『セカンド・アルバムのジンクス』のような不安は微塵も感じられませんでした。
約1年前、チャーリーと彼のワイン・メイキング・チームが51°N 2014をリリースするという決心に至った時、それはガズボーンにとって歴史的な瞬間であっただけでなく、本当の意味で、イングリッシュ・ワインにとって画期的な瞬間だったのです。
そのワインは、世界の偉大なヴィンテージ・スパークリング・ワインと肩を並ぶことができるものであり、熟成能力、複雑さ、知性、そして何よりもガズボーン独自のテロワールと最高品質のブドウを証明するものでした。
「このようなワインを世に発表する時、与えられたチャンスは、たった一度きりです」とチャーリーは語ります。「成功させるためにできることは全てやり、最善を尽くしましたが、それでもワインを世界の舞台に載せるということに大きな不安を感じていました」。
「ですが蓋を開けてみれば、それ以上は望めないというほどの反響を得ることができたのです。」
ある著名なワイン評論家は51°Nを「ミニ・クリュッグ」と評し、国内外の市場で51°N 2014年のアロケーションは予想した以上の早さで完売。
こうして私たちは今、その物語の新たな章の幕開けの瞬間を、静かに待ち構えているのです。
フィフティ・ワン・ストーリー
ワインづくりとは、目の前のブドウと向き合って新たなヴィンテージをワインに写し取ることだけをいうのではなく、すでに出来上がり、セラーの中でまどろむボトルを見守ることも重要な側面です。ワインメーカーは、これらのワインと常に向き合い、理解し、どのように活かすのが最善かを判断する仕事なのです。
つまり、チャーリーと彼のチームが集まって、次のヴィンテージをどうするかを決める際、単に2015年のワインを準備すればいいというものではありませんでした。実際、51°Nの新しいリリースは、2016年ヴィンテージです。
スタイル的に2015年がガズボーンの最高プレステージ・キュヴェとしてはふさわしくないという判断がなされたからですが、その理由を理解するためには、フィフティ・ワンの始まりに立ち帰る必要があります。
「当初、51°Nのファースト・ヴィンテージは2013年になると考えていました。涼しい年だったので、よい熟成をするだろうという目論見です。pH値が低く、高く伸びる酸もあり、その骨格は永遠に熟成しそうなポテンシャルを秘めていました。」
「ワインは素晴らしかった。ニュアンスに富み、かつ繊細。しかしフィフティ・ワンのキュヴェは、私たちガズボーンの個性をこれ以上なくはっきりと際立たせるものにしたかったのです。インパクトがあり、ふくよかで丸みがありつつ筋肉質で、チョーク土壌だけでなく粘土土壌の果実感がしっかりと感じられる…… そんな私たちのハウススタイルを、凝縮して表現したスタイルである必要があったのです。」とチャーリー。 「2013年は、ともするとエレガントで控えめ過ぎました。スタイル的には2015年ヴィンテージは2013年に酷似しています。優美で精緻、凝縮力もあり、非常においしい。イギリスらしいスタイルです。しかし我々が『フィフティ・ワン』に求めるスタイルとは少し異なりました」。
2014年は、それとは対照的なヴィンテージです。チャーリーと彼のチームが求める味わいの力強さを全て備えていました。「当然、2014年の次の『フィフティ・ワン』のリリースにも、同じだけの強度を求めました」と彼は続けます。「私たちはそれを実現しただけでなく、結果的に、それ以上のものを手に入れることができたんです。」
チャーリーの考えでは、2016年は独自の存在感を放つ年です。
「これまでのどのヴィンテージとも異なります。2010、2013、2015年は柑橘系中心で酸が強め。2014、2018、2022年は果樹園の果実味がはっきり出ていて、柔らかさと丸み、ボリューム感があります。そして、2016年。これは言ってみれば、両者のいいとこ取りです。傑出した良年らしい果実の成熟度と、それを貫く素晴らしい酸の質と量。」
「かつて、私は2016年がブラン・ド・ブランで一番好きなヴィンテージだと言っていました。これは事実です。2016年は、偉大なイングリッシュ・ヴィンテージとして語られる年ではありません。いわゆるグレート・ヴィンテージは、14、18、22年でしょう。しかし、2016年にも良い結果を残せた生産者は他にもいるかもしれませんが、私たちガズボーンでは、全く『別次元』のワインをつくることができということなのです。」
「そして、それが2016年を気に入っている理由のひとつです ー ひときわユニークな、特別な表現を手に入れることができたのですから。」
フィフティ・ワンの進化
デビュー・ヴィンテージをリリースしある程度の『スタイル』が確立された今、チャーリーは次のキュヴェにどのように取り組んでいるのでしょうか?フィフティ・ワンは進化することができるのでしょうか。 「進化しなければなりません」とチャーリーは言います。「私たちは、まだまだ学んでいる最中です。毎日が新しい学びの連続。ー それはフィフティ・ワンのようなワインでも同じなのです。
私たちは、フィフティ・ワンを、ガズボーン、そして英国ワインの最高表現として創り上げたいと思っています。ブドウという私たちが一から手がけた素材 ー それらをもとに、私たちがつくり得る限り、最上・最高のワインを創りたいのです。」
しかし、チャーリーの『最高』の定義は、特定のボーダーラインやレシピによって決まるものではなく、常に進化し続けるワインとの関係性によって定義されるものだといいます。全てのワインはリリースされるその時に、そのヴィンテージの最高の表現となるよう、繰り返されるテイスティングと評価を通じて、大切に育てられるべきものなのです。
「毎年1月に、2013年から最新のヴィンテージまで、セラー内の全てのワインを試飲します。全てのフィフティ・ワンをテイスティングするのです。味わいをマッピングし、スタイルの進化の過程を評価します。どの特徴がそのヴィンテージに由来し、どの特徴が醸造に由来するのかを区別しなければなりません。何が好ましく、何がそうでないか。そしてその良い特徴を、どうやったらさらに引き出すことができるのかを考え、時間の経過とともにスタイルを微調整していきます。」
そうして出来上がった、次章となる2016年。それは、2014年の単なるカーボンコピーでも模倣でもなく、まさしく「進化」となったのです。
2つの年の関係性
全てのガズボーンのワインには、2つの相対する要素に挟まれるジレンマがあります。どのヴィンテージでも追求するのは「その年ならではの最高の表現」でありながら、前のヴィンテージとの共通項となる「ワインのスタイル」を兼ね備えている必要がある。同一のワインは造らない、しかし、ヴィンテージ間の一貫性が必要というわけです。
では、これらフィフティ・ワンの2つの異なるヴィンテージは、どのように関連しているのでしょうか?チャーリーは言います。「2016年は、私たちが2014年に愛した要素をすべて備えていながら、それ以上のものを持っています。これまで数年間にわたってテイスティングしてきましたが、その度に2016年は全員一致の『素晴らしい』という評価を引き出し続けてきました。このワインは『セカンド・アルバムのジンクス』とは無縁だと、最初から確信していたのです。」
ストラクチャーと味わいの点で、2つのヴィンテージには共通する特徴があります。「私にとって本当に興味深いのは、ヨードのニュアンスです」とチャーリーは言います。「これはシャルドネのミネラルと成熟したピノ、その組み合わせから来るものだと思います。時に、マーマイトのように感じられることさえあるのです。
2014年でも、開けたてにはそのアロマが感じられます。牡蠣の殻のようなフレッシュさとミネラリティ。それは15分ほどで消え去り、柔らかな黄色い果実へと変容します。そして飲み終わるというとき、パティスリーのかぐわしい香りが現れます。コルク栓で熟成する時間が長ければ長いほど、その香りが前面に出てきます。
しかし2016年ではすでに、ヌガーとバターの要素が強く出てきています。澱熟成に期待する、ありとあらゆる個性が満載です。」
未来を予想する
ワインづくりとは、百科事典のような記憶力と未来を覗き見る『水晶』の両方を必要とする、アートの一形態です。チャーリーと彼のワインメイキングチームは、ワインの成り立ちを振り返りながら、同時に将来の発展を予測しなければなりません。
リリースの瞬間、フィフティ・ワン・ディグリーズ・ノースはその進化の過程の中の特別な地点に立っています。美しい均整に達しつつも、内には複雑な要素がギュッと固く絡まり合っている状態です。最大化され、互いに編み込まれたそれぞれの構成要素は、その全貌が時と共にゆっくりと解き明かされるのを待っているのです。
「2016年の現在の状態にとても満足しています」とチャーリー。「しかし、トーストのアロマや樽香、ほんのり感じられるナッツの風味、そして、このワインの性質とつくり方を考えれば、時間の経過とともにさらなる発展があることは言うまでもありません。最高に美味しい時期に達するのは、これからなのです。このワインはまだ、生まれたての子供なのですから。」
フィフティ・ワン・ディグリーズ・ノースの2016ヴィンテージは、2023年秋に英国リリース、2024年に順次その他の市場で発表される予定です。